2022年10月から社会保険加入対象者が増加。パートの働き方を見直すきっかけに
三鷹のファイナンシャル・プランナー(FP)の伊達です。
2020年に年金制度改正法が成立し、社会保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大が2022年10月から始まります。これによって、パートで働いている人が社会保険の加入対象となるケースが増えると考えられています。
パートの働き方としては、扶養の範囲内で働くことを考えている人も多いでしょう。いわゆる「130万円の壁」と言われるものです。
130万円以上になると扶養から外れ、自分で年金や健康保険を納めなければならないので手取りが減ってしまいます。そのために年収を130万円以内になるように調整する人もいます。
しかし、今回の見直しで130万円未満でも扶養を外れるケースが増えてくると考えられます。社会保険に加入するか、年収をさらに下げて扶養の範囲内で働くか、改めてパートの働き方を考えるきっかけになるでしょう。
(注)記事の内容は2022年8月30日時点のものです。
社会保険の適用拡大のポイント
パートやアルバイトで働いている人が社会保険に加入する条件について、改めて確認しましょう。
現在(2022年9月まで)
- 1週間あたりの決まった労働時間が20時間以上30時間未満(残業時間は含まない)
- 1ヶ月当たりの決まった賃金が88,000円以上(賞与、残業代、通勤手当は含まない)
- 学生でない
- 雇用期間の見込みが1年以上
- 勤務先の従業員数が501人以上
労働時間が週に30時間未満の人のうち、上の5つの条件に当てはまる人は社会保険に加入し、扶養から外れます。月8.8万円は年106万円ですので「106万円の壁」とも言われます。
2022年10月の改正では2つの条件(4番目と5番目)が見直されます。
2022年10月改正後
- 1週間あたりの決まった労働時間が20時間以上30時間未満(残業時間は含まない)
- 1ヶ月当たりの決まった賃金が88,000円以上(賞与、残業代、通勤手当は含まない)
- 学生でない
- 雇用期間の見込みが2ヶ月超
- 勤務先の従業員数が101人以上
影響が大きいのが勤務先の従業員数の見直しです。101人以上の事業所で働いているパート・アルバイトの人が新たに対象になり、加入者が増えると考えられています。
さらに、2024年10月改正では従業員数が51人以上に見直され、中小企業で働いているパート・アルバイトの多くの人が加入者になると考えられます。
(注)100人以下(2024年10月以降は50人以下)の事業所でも、労使の合意があれば社会保険の加入者となります。
社会保険に加入すると本人の保障が充実
パート・アルバイトの人が社会保険(厚生年金保険・健康保険)に加入することで、主に次の点で保障が充実します。
厚生年金保険に加入
- 老齢厚生年金の対象となります。
- 2階部分(厚生年金)の分、老齢年金が増額されます。
- 障害厚生年金の対象となります。
- 2階部分(厚生年金)の分、障害年金が増額されます。
- 障害厚生年金は3級、障害手当金があり保障が受けられる範囲が広がります。
- 遺族厚生年金の対象となります。
- 2階部分(厚生年金)の分、遺族年金が増額されます。
健康保険に加入
- 傷病手当金が受けられます。
- 病気やケガなど(業務外)で連続4日以上働くことができないときに、最長1年半、給与の2/3が支給されます。
- 出産手当金が受けられます。
- 出産のために会社を休み給料がもらえないときに、産前42日・産後56日間、給与の2/3が支給されます。
老齢厚生年金はどの程度増えるのか
老齢厚生年金は加入期間の給料の合計から受給額が決まります。例として月8.8万円のケースで老齢厚生年金の受給額を計算してみます。
月給8.8万円(年収106万円)の場合
- 1年間加入:年5,788円(=88,000円×12月×5.481/1000)
- 10年間加入:年57,879円
- 20年間加入:年115,758円
老齢厚生年金は終身で亡くなるまでもらえます。上記のように月給8.8万円で1年間加入した場合、老後の65歳~90歳の25年間では総額144,700円の年金が増えることになり、長生きするほど受給額の合計は増えます。計算上、老齢厚生年金を17年間受給すると、受給額の総額が払った年金保険料を上回ります。老後の年金としては、上記の他に老齢基礎年金があります。
加入時の保険料負担
厚生年金保険料、健康保険料は標準報酬月額という、月の給料を等級に割り振ったもので決められています。なお、保険料は勤務先と1/2ずつ負担します(半分は会社持ち)。
40歳未満で介護保険なし、東京都の協会けんぽ加入のケースで考えてみます。
- 月給8.8万円(年収106万円)の場合
- 健康保険料4,316円、厚生年金保険料8,052円、月合計12,368円
- 年148,416円
- 月給10万円(年収120万円)の場合
- 健康保険料4,806円、厚生年金保険料8,967円、月合計13,773円
- 年165,276円
ちなみに、40歳以上で介護保険を負担する場合は次のようになります。
- 月給8.8万円(年収106万円)の場合
- 健康保険料(介護保険込み)5,038円、厚生年金保険料8,052円、月合計13,090円
- 年157,080円
- 月給10万円(年収120万円)の場合
- 健康保険料(介護保険込み)5,610円、厚生年金保険料8,967円、月合計14,577円
- 年174,924円
パートの働き方を見直すきっかけに
まずは2022年10月から社会保険の加入対象になるか確認しましょう。
月8.8万円で働いている人が、新たに社会保険に加入すると約16万円の負担増となります。ただし、老後の厚生年金が約14万円(25年間受給する場合)増加し、その他の保障も充実します。
同様に、月10万円で働いている人が、新たに社会保険に加入すると約17万円の負担増となりますが、老後の厚生年金が約16万円(25年間受給する場合)増加します。
老後の年金やその他の保障を考えると悪くない話です。しかし、手取り額を重視する人にとっては、今受け取れる金額が減ることの方が影響が大きいかもしれません。
年収130万円に近い働き方をしている人は、扶養の範囲内を意識している人と思われます。年収120万円のケースで考えると、保障を充実させてそのまま社会保険に加入するか、年収105万円(月8.7万円)に減らして扶養の範囲内で働くかの選択になります。保険料を16万円負担するか、収入を15万円減らすかの選択とも言えます。
最低賃金が毎年上昇する一方で、扶養の上限が下がってきていますので、扶養の範囲内で働くことのできる労働時間が短くなっている状況です。今後は、扶養の範囲内にこだわらず、社会保険に加入して働くという考え方も選択肢に含めてよいのではないでしょうか。
ライフプランを考える上で、生涯の収入に関わる「働き方」は重要なポイントです。働いたときの収入によって将来の年金受給額も変わりますので、ライフプランを作成し資金シミュレーションをすることで、家計への全体的な影響を知ることができるようになります。
参考
厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイト
(https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/)
全国健康保険協会ホームページ 令和4年度保険料額表
(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g7/cat330/sb3150/r04/r4ryougakuhyou3gatukara/)